13.

何故、殺し合う者たちを止めに行こうとするのか・・・?

ネオ麦茶は自問自答しながらバスジャック事件のことを思い出していた。あの時、警察は高速バスに立て篭もる僕を説得するように僕の両親に要請した。でも、僕の両親は「そんなこと・・・私達には出来ません」と断ったという。
もしも、両親が説得に来ていたら僕はナイフを捨てて投降しただろうか?いや、両親をも刺してしまっただろうか?あるいは妹が説得に来たとしたら・・・

「お兄ちゃん、やめてよ、お願い」
僕は誰かが説得しに来るのを待ってたのだろうか?いや、そんなはずはない。でも、妹の泣き顔を見てもアイツを刺せただろうか・・・?

ネオ麦茶は銃撃戦が行なわれている地点にたどり着くと、茂みの中から、そっと頭を出す。目の前では殺し合いが繰り広げられている。

怖い・・・人を殺そうとする者を説得するのはこんなに怖いことだったのか・・・。ネオ麦茶は呟く。
 「こりゃあ僕の両親も説得の要請を拒むよな」

銃撃戦を繰り広げていたのは西川和孝と日本赤軍の女リーダー・重信房子だった。

「おんどりゃあ!このへタレ子役め!あたしはね、優勝したら社民党に入党して選挙に出る予定なんだよ!元赤軍の女リーダーの上に犯罪者バトル・ロワイアルに優勝したら、私の経歴に箔がつくってもんだ!当選間違いなしだよ」

重信が物凄い形相になりながら発砲する。さすが過激派リーダーというだけあって銃器の扱いには慣れており、戦況は彼女が優勢だ。

パン!パン!
一方の西川も、ちゃん!こと拝一刀の息子・大五郎としての意地を見せる。

「ちゃん!見ててくれよ。僕が凶悪犯どもを退治して、優勝したら平成版『子連れ狼』をドラマ化するから。テレビ局に企画持ち込んだら即ドラマ化だよ・・・僕も凶悪犯だけど」
バン!バン! 凄まじい精神力だ。

怖いけど拳銃があるから大丈夫だ。
茂みから見ていたネオ麦茶は足に力をこめ、立ち上がった。 ベルトに差していたスミス&ウエッソンを取り出すと空に向けて一発撃った!

「やめろぉ!」

同時に叫ぶ。西川と重信は同じタイミングで、ネオ麦茶の方を見やった。

「よせ!やめるんだ!僕は助かる方法を知ってるヤツと一緒にいる。僕を信用しろ」

それを聞いた西川が身を隠していた木陰から出てきた。

「ちゃん!だね。ちゃんが来てくれたんだね」

西川の意識はもうろうとしており、現実と架空、過去と現在が錯綜している。
その時だ!ノーガード状態になった西川を重信が拳銃で撃ち抜く。

パンッ!

ネオ麦茶は西川の頭の一部が吹き飛ぶ瞬間を見た。西川はどっと倒れ、息絶えた。

「・・・ちゃん!来るのが遅いよ。僕が死んだら物語が続かないよ・・・」

「まったく今の日本人は甘ちゃんだね!中東に来たら誰一人生き残れないよ!」

長らく中東の地でパレスチナ・ゲリラと共に戦ってきた過激派リーダーのセリフだけに重みがある。
重信房子は身を翻すと、茂みの中へ飛び込み、ネオ麦茶の視界から消えた。ネオ麦茶の後ろにはショットガンを手にした酒鬼薔薇が来ており、重信は撃ち合えば不利だと判断したのだろう。的確な状況判断だ。事実、2人は病身の小野愛を抱えており、逃げた重信を追えない。

「なんてこった・・・」

ネオ麦茶は死んだ西川のそばに膝をついた。酒鬼薔薇はネオ麦茶の近くまで歩み寄った。愛は酒鬼薔薇の肩に寄りかかり、酒鬼薔薇は左腕で愛を支えている。

「そんなことで落ち込んでたら、このゲームに生き残れないぞ。これでいいんだよ。参加者は皆、死んで当然のヤツさ。悲しむ必要なんてない。俺たち3人以外であれば誰が死のうが構わない。これが犯罪者の論理だ。違うか(藁)?」

酒鬼薔薇は西川が持っていた拳銃とデイバッグを拾い上げながら言った。

「行くぞ。早くしろ!」


小野愛の熱は見る見るうちに下がってきた。

「良かったよ。残り物の薬でも効くもんだな」

愛の額に手を当てた酒鬼薔薇が言う。
酒鬼薔薇は診療所に着くなり、棚から薬品を取り出し、手際良く注射器に挿入し、愛に薬を投与した。

「そんなことまで出来るのか?」
ネオ麦茶は感心している。

「これぐらいの応急処置は、CIA工作員のイロハだよ」

酒鬼薔薇は軽く言った。
3人は、診療所に腰を落ち着かせている。あまり動き回るのは危険だ、という酒鬼薔薇の判断からだ。

「ネオ麦、君は犯罪史に名を残したかったとも言ってたね?」

酒鬼薔薇は煙草に火をつけるとネオ麦茶に問いかけた。

「そうだ」

酒鬼薔薇はその反応に頷くと

「その目的は達成出来たと思うか?」
と、さらに突っ込んで問う。
「・・・」

ネオ麦茶は即答しようとしたが、その言葉を喉元で止めた。
酒鬼薔薇が三度目の質問に出る。

「トレンチコート・マフィアを知ってるか?」

ベットで寝ていた愛が代わりに即答した。
「知ってるわ。アメリカの学校で銃を乱射した2人の高校生ね」

「ああ。事件は1999年4月20日に起きた。ネオ麦、俺はあの事件と君が起した事件は本質的には変らないと思っている。だが、2つの事件には決定的な違いが3つある。何だと思う?」

ネオ麦茶の反応を待たずに酒鬼薔薇が続ける。
「君がバスジャックを起した前の年にコロラド州デンバー起きた事件では、2人の高校生は犯行現場で自殺している。これが一つ。そして何故4月20日に決行したのかという点だが、この日は独裁者ヒトラーの生誕の日だったんだよ。2人はナチスを信奉していて、その政治思想に殉じたんだ」

酒鬼薔薇はネオ麦茶と愛の顔を交互に見ると話を続けた。

「3つ目が肝心だ。1人ではなく2人で事件を起してる点なんだ」

ネオ麦茶と愛には何を言わんとしているのか、まだ分からない。

「いいかい?インターネットの『2ちゃんねる』だと、無差別殺人をした奴なんぞキティガイ扱いを受ける。そんなスレッドが腐るほど立てられるだろ?だが、トレンチコート・マフィアをキティガイ扱いするような声はネットでも巷でも、あまり聞かない。考えてもみろ。キティガイ同士が一緒に計画を立てて事件を起して、一緒に死ぬと思うか?」

酒鬼薔薇の話で、ネオ麦茶と愛の思考回路が作動し始めた。

「以上の3点が君と決定的に違うところだ。・・・だが、ネオ麦。このゲームに参加して、今、君のまわりには誰がいる?」

ネオ麦茶は愛の方を向く。酒鬼薔薇はニヤリとして言った。

「可愛いスィートハニー(恋人)がいるだろ。お互いに信じ合って助け合う仲間がいるだろ」

ネオ麦茶はハッとして、愛は顔を赤らめてうつむいている。

「もう少し早く仲間をつくっていれば、君の人生も違ってただろうよ、ネオ麦・・・だがな、遅くはないぞ。そういう2人だからこそ、俺も助けてやりたいと思ったんだ」

酒鬼薔薇の言葉に、ネオ麦茶が勇気付けられた。

「僕達、最後まで一緒だ。政府のヤツらにでっかいカウンターパンチを食らわせてやるぜ!!」

「真っ直ぐ生きてやるぞーっていうエネルギーが湧いてきたわ」

3人は固く手を取り合った。



 

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