17.

−公衆トイレ前−

麻原彰光が周囲を警戒しながら公衆トイレに入るのを確認すると、茂みから隠れて見ていた上祐史浩は笑いを堪えるのに必死になった。

「くっくくくっ!くふふふふ!(激藁

尊師!アナタってやっぱりキング(王)ね。長〜い間ずっとずっと、サティアンで王様暮らししてたから、トイレなんて茂みの中で済ませちゃえばいいものを・・・ぷぷぷっ(藁
きちんとしたトイレじゃないと我慢ならないのね。うふっ。可愛い」

偽証罪で逮捕され、3年の懲役刑を終えたはずの上祐がバトル・ロワイアルに参加させられる羽目になった理由は、上祐自身が誰よりも知っていた。
上祐が指揮したものの失敗に終った『炭疽菌』散布事件に対する再捜査が始まり、彼は再び捕われの身となった。
上祐の頭では、既に優勝までの筋書きは完成していた。

「とにかく尊師には頑張ってもらわないと!尊師が次々に殺しまくって最後にわたしと2人きりになったら、わたしが背後から尊師を撃っちゃうの! このゲームには尊師以外にも曲者(酒鬼薔薇とか新宿ボンバーとか林真須美とか)がたくさん参加してるから、最後の2人になるまで尊師もどこかで手負いになるに違いない。そうしたら無傷のわたしと勝負したってわたしが絶対有利よ。このまま尊師を後をつけて行けば、わたしの優勝は間違いナシね。くくく(藁」

上祐は自身に支給された『デリンジャー』と呼ばれる小型拳銃を握りしめた。 思考がさらに頭をめぐる。

「この展開って、まるで、わたしの人生そのものじゃない。皆が崇拝する尊師に従って、オウム真理教は発展した。でも、尊師の命令による一連の事件で、ほとんどの最高幹部が逮捕され、尊師まで逮捕されて邪魔者はいなくなった。オウム・・・いやいや、現アレフはわたしが牛耳ってるじゃない。ぷぷぷ(藁
尊師!何も心配しないでネ。アレフはわたしがちゃんと運営していくからさ。何よりも、今は目の前にいる敵を全部倒してちょうだい!」

公衆トイレに入ったまま麻原は出てこない。上祐はアレコレ考えていた。

「わたしが何故、ゲーム開始前に小泉に何も言わなかったかって?
だって、あの場面で純ちゃんに口答えしたところで兵士に撃ち殺されるのがオチでしょ? わたしの得意な『ああ言えば上祐』はテレビカメラの前だけで発揮されるのよん。
それにしても尊師も空中浮揚が出来るの何のと言ったって、所詮は人間よね。小便だってするわけだし・・・それにしても遅いな・・・そう、あれは確か科学技術省長官の村井が道場前で刺殺された夜だった。麻原さんは出てこないのか、という報道陣の問いにわたしったら、つい興奮して今度は麻原を死なせる気か≠ネんて怒鳴っちゃったわね。あとで逃走中の高橋君から、電話で抗議されたっけ」

上祐はあの夜のことを思い出していた。
・・・上祐さん。"麻原"なんて呼び捨てはいけませんよ。ちゃんと"尊師"と呼ばないと・・・

「でもね、高橋君。そんな甘いこと言っているから最後には尊師に裏切られるのよ。法廷で事件は弟子が独断でやったこと∞全ては弟子が悪い≠ネんて言ってる教祖を心から信頼出来ると思ったの?」

それにしても麻原は遅い。あと数分でここも禁止エリアになってしまう。上祐は時計を見た。

「尊師!どうしたの?トイレなんてさっさと済ませて、早く仕事してちょうだい!」

麻原はいっこうに出てこない。
まさか祈りを捧げるにも夢中でいるとか?そう、このゲームでの麻原の異常な強さは祈りによるお陰なのだ(それは"麻原の野望・オウムの系譜"というゲームで実証された)

「いや、尊師がそんな間抜けなわけないわね!!地図の見間違いかしら?」

いや、地図は確実に正しい。
上祐は耐えきれずにトイレを覗いた。
それは・・・水ボトルが吊り下げられて揺れ、水がぽたぽた落ちていた。

「そんな・・・・」

上祐は恐慌状態になった。トイレとは全く違う方角から、麻原の声が聞こえた。

「美しく散った。マイトレーヤ正大師におおいなる拍手を」

「えっ・・・・」

上祐の首輪が爆発した。
そのセリフは、麻原が上祐を殺すには惜しいと称える意味で言ったであるかは分からない。


―死ぬ間際―
上祐は東京拘置所に収監されていた麻原に面会した時のことを思い出した。麻原にオウム所有の土地を売却する相談に訪れたのだ。

「上祐!3億で買った物を何で1億で売らなきゃならないんだ!この馬鹿野郎!」

麻原は怒鳴った。どうせ怒鳴っても尊師は2度と娑婆には戻って来れないというのに・・・
教団が所有する物件のことでムキになっても仕方がないだろうに・・・とその時は思った。しかし、今になって、あの時、尊師が怒鳴った意味が分かった。

「尊師・・・あなたは犯罪者バトル・ロワイアルが行われることを知っていたんですね。
そして自分が優勝して娑婆に出られることを確信していたんですね。だから・・・だから、あの時、怒鳴ったんですね。今ようやく、その意味が分かりました。尊師・・・」

上祐の首なし胴体が地面に横たわった。
麻原は冷酷な目でそれを見届けると、その場から立ち去った。


 

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