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細い雨が落ち始めている―。
ネオ麦茶は覆い茂る緑の中を縫って、ゆっくりと移動していた。 肩からウージー・サブマシンガンを吊って右手にそのグリップを持ち、ズボンの前にはCz75を差している。ブローニングは背中のデイパックに、かき集めた弾薬と一緒に入れてあった。 結局、ネオ麦茶はすぐに灯台を離れたが、やはりと言うべきか15分ほど経つと灯台の方角から銃声が届く。マシンガンだ!その後に単発の銃声!またもマシンガンが鳴る!そして、銃声は止んでしまう。 「また・・・死体が増えているのか・・・」
海に面した舗装道路に出た時、雨は一層激しくなり始める―。 「こんな時こそ・・・バスジャックしたいな」 ウージーのグリップをさらに強く握る。もっとも、バトル・ロワイアル会場でバスなど走っているはずもないが。
「早くしないと、これが爆発するぞ」 酒鬼薔薇は金属製の首輪を指差す。
「胴体と切り離されてギロチンだ!」 愛は状況を充分に認識していたが、それでもネオ麦茶の帰還をギリギリまで待ちたかった。 「大丈夫だ。ここでネオ麦と会えなくても、きっと見つけ出せる!」 酒鬼薔薇に明確な根拠があったわけではない。今はそう言う他なかった。「気持ちは分かるが、俺達が死んじまったら元も子もない。首輪に電波を送る政府の連中は1分1秒たりとも待ってくれねぇんだ。 酒鬼薔薇はウインクしながら少し笑みを見せ、愛を元気付ける。「ネオ麦も小泉の放送を聞いてるさ」 2人は立ち上がり、その場を離れた―。
ネオ麦茶がこれまで歩いてきたのはたかだか1・5`足らずだったが、相当量の血を失った影響は大きく、体がフワフワしている。全身の傷の痛みは吐き気をもよおすほどだ。 よく観察すると、木々の枝に作られた鳥の巣にはヒナが数羽いるのが分った。どうやら親鳥は、ネオ麦茶が巣に近付いたことで警戒したようである。ヒナを敵≠ゥら守ろうと神経質になっているのだろう。ネオ麦茶はそう思った。 「相手が自宅で飼っていたハムスターを殺したネオ麦茶というバスジャッカーなら尚更警戒するだろうな」などと冗談半分に考えながら。
引き金に力をこめようとするが―やめた。小動物をいじめてはいけない。 小動物を虐待する悪魔が、ネオ麦茶にささやく。ウージーの照準を定めようとした時、ネオ麦茶の中でもう一人のネオ麦茶≠ェ言う。 そんな場合ではない―。俺には、他に戦わなければならない敵がたくさんいる―。ネオ麦茶は逡巡していた。 そうこうしている内に、親鳥はネオ麦茶の背後に回り込み、急降下してネオ麦茶の後頭部に体当たりを食らわす―。 ネオ麦茶は理性が吹っ飛ぶのを自分自身でも感じ取った。 もっとも自分に理性なんてあったのか、とも思ったが。自分の中に理性が作られていたら、バスジャックなんてしなかっただろう、とも。「理性」とは始めからあるものではなくて、作られるものだということをネオ麦茶は自覚しないまでも、どこかで感じ取った。 「あの親鳥め、ふざけやがって!ブチ殺してやる!」 ウージーを構えた時、周囲の草むらでガサガサと何かが動く!ちっ、そこにも何か小動物がいるのか、まぁいい、まとめて殺してやる!まずは鳥からだ!蜂の巣にしてやる!ほぼゲーム感覚で、つかの間の動物殺しを楽しもうと狙いを定めようと― 恐ろしい速さで草むらにいた何か≠ェ背後に迫って来た―!
ネオ麦茶が振り返り銃口を向けようとする前に、何かが背中に押し当てられた!
そこには端整な顔立ちのマスクがあった。酒鬼薔薇だった。 再会早々に説教じみた話だが、内容とは裏腹に、とても優しい声色だった。 「ネオ麦、自然に感謝しろ。あの鳥が騒いだおかげで、お前と早く会えたんだ。約束した落ち合い地点は禁止エリアに入っちまった」
少し強い口調で続ける。 ざっ、と音がして、酒鬼薔薇の後ろに小野愛が現れる。雨に濡れた髪の下、ネオ麦茶を見つめる瞳と口元が震えていた。 「ネオ麦さん・・・」
半ば酒鬼薔薇を押しのけるように、愛が走り出す。 ネオ麦茶は自分も泣きそうになっていることに気付き、にこっと笑って見せようとした。酒鬼薔薇が腕時計を指差しながら、2人に言う。 「1分だ」ネオ麦茶の右肩にかけられていたウージーを手に取る。 「1分間だけ、お互いの想いを確認し合え。その間、俺が見張っててやる。1分経ったら移動するぞ」
さらにネオ麦茶に付け足す。 「俺、弱いけど、頼りになんないけど、愛のそばにいる・・・愛を守る!」 酒鬼薔薇は2人から少し離れることで気を利かす。口には出さないが、よく生きてたな、祝福するぜ、と言ってるかのようだ。いつの間にか雨は上がり、親鳥は巣に戻っていた。【残り7人】 |
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