42.

バードコールが鳴る―。

「宅間からの合図だ!」
ネオ麦茶ら3人は岩間に腰を下ろしていた。

「宅間さん、無事だったのね!てるくはのるさんと会えたんだわ!」
愛が思わず声を大きくする。

「行こう!」
ネオ麦茶が言う。

「よし!」
酒鬼薔薇が真っ先に立ち上がり、ウージーを肩から下げる。続いて愛が立ち上がった。
体中に傷を負っているネオ麦茶は、手を貸そうとする愛に「大丈夫だ」という仕草をして、ゆっくり立ち上がる。酒鬼薔薇が口に咥えた煙草に火をつけ、3人はバードコールが聞こえる方向へ出発した。

雨はすっかり上がり、青空が雲の間から見え、太陽の光が眩しく差し込む。まるで、木々の間を歩く3人を包み込むように。
途中、一つ煙を吐いた酒鬼薔薇が、ふいに

「ここを出たら、何をしたい?」

と聞いてきた。それから「やっぱり少年の王国≠作るのか?」と続ける。ネオ麦茶が頷き、それを見て酒鬼薔薇が話す。

「日本でやるのは難しいぞ。上手くここを出ても、俺達は犯罪者だからな。犯罪者であるがために、このゲームに参加させられ、ここから逃げれば、なお犯罪者だ。政府に追われ、いずれは殺される。ネオ麦、外国へ行けよ」

「外国?」

ネオ麦茶がおうむ返しに問う。

酒鬼薔薇が短くなった煙草を投げ捨て、足でもみ消しながら言った。

「ああ。少年犯罪が凶悪化してるのは日本だけじゃない。青少年の荒廃は先進国共通の問題なんだ。教育のせいだろうな。権利に付随する義務を教えることを怠った結果だよ。アイツらを束ねるのは、ちと難しいぞ。気をつけろよ。何せ連中の中には他人≠ェないんだ。我こそが全て≠セからな。ただし、そういう教育で育った連中の個性というのは確立されてなくて、至って脆弱だ。だから強烈な個性≠ニかカリスマ≠前にすると、連中の個性は脆くも壊れちまう。そういう連中を束ねて成功したヤツが最近の日本にいるとしたら、オウムの麻原だろうな」

「麻原が!?」

ネオ麦茶がはっと驚き、酒鬼薔薇が頷く。

「自分に自信が持てずに、さまよう連中を集め、束ねたんだよ。少年の国のキング・ネオ麦くんには、どれほどのカリスマ性があるかな?」

「だから―」

愛が2人の話に入り込む。

「酒鬼薔薇さんが王様になればいいのよ!酒鬼薔薇さんが天皇陛下で、ネオ麦さんが首相で決まりね!」

ネオ麦茶の目が輝く。

「そうだよ!!」

酒鬼薔薇は首を横に振った。話を元に戻す。

「外国へ行け。仕事柄、俺には向うに色々なツテがある」

愛の質問が、酒鬼薔薇をやや面食らわせた。

「酒鬼薔薇さんは?どこへ行って、何がしたいの?」


かなり近くで鳴り響いていたバードコールが一旦止んだ。
酒鬼薔薇が歩く足を止め、ちょっと苦笑いを見せる。
「話さないつもりだったが―」

息をつく。

「いや、俺は話しておきたいのかな」

ズボンのポケットに手を伸ばして、パスケースをつかみ出す。中から一枚の写真を抜き取った。それを愛が受け取り、隣にいたネオ麦茶が一緒に覗き込む。

「かわいい!!」

愛が頬を緩ませながら言った。写真にはランドセルを背負った10才くらいの少女が写っている。

「彼女がいたんだ?」
ネオ麦茶が訊く。 

「馬鹿野郎!俺が好きなのはスタイルのいい女だけだ。ガキは趣味じゃない」

酒鬼薔薇が鼻で笑い、即座に否定した。

「ネオ麦、忘れたのか?一連の神戸事件は国家的謀略だったってことを」

それでネオ麦茶と愛も気付いたのだろう、表情が一気にこわばった。 酒鬼薔薇がまた煙草に火を点けて煙が流れ、続けた。

「その子・・・生け贄にされちまった。俺は助けてやれなかったよ、彩花ちゃんを」



 

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