45.

ネオ麦茶の頭のすぐ脇にあった細い木の幹がぱん、と裂けた。勢いよく弾けた砕片が顔に当たり、目に入りそうになるが、構っている余裕はない。茂みの中、枝葉が行く手を阻むように引っかかり服も肌も擦り切れるが、構わず強行突破する。
ぱらららー、という音がまた聞え、酒鬼薔薇がウージーを連射して応戦しているのが、愛の手を引きながら振り向くことなく、ひた走り続けるネオ麦茶にも分かる。愛は気丈に顔を引き締めていたが、左肩の大半は今やベッタリ血に覆われていた。

くそ!ファッキン麻原め!

茂みを抜けると、海辺に出た。酒鬼薔薇が撃ちながらネオ麦茶と愛の後ろへ追い着く。

「こっちだ!早く!」

酒鬼薔薇が2人を岩間へ先導する。また後ろから、ぱららららー、という音がし、海辺の岩を削り取る。3人は岩の間から岩の間へ入り込む。足場は悪く、ネオ麦茶は愛を握る手にさらに力を込めた。絶対に離さない!
途中、段差の激しい箇所に出くわすが、ネオ麦茶が後ろから愛を押し上げ、先頭を行っていた酒鬼薔薇が上から愛の手を引き上げる。

「頭を下げろぉ!!」

酒鬼薔薇が叫び、ネオ麦茶が愛の頭を抱き込んで身をかがめる。
ぱららららー、という音が響き、2人のすぐ上の岸壁にばばばっと火炎の花が咲く。削り取られた岩の砕片が頭に降りかかった。ネオ麦茶は跳弾が当たったりはしないかと心配になったが、そこに立ち止まってはいられない。
酒鬼薔薇がウージーを撃ち返した。当たったのか、そうではないのか、とにかく麻原は撃ち返して来ず、激しかった銃撃戦が一旦止む。

ネオ麦茶は立ち上がり、愛を抱えて右手方向の岩間へ走ろうとしたが、酒鬼薔薇が袖を引っ張って、背後を警戒しながら逆方向の岩間へ急いで連れ戻す。そっちは海で、逃げ場はないはずだ!

「麻原は―!?」

ネオ麦茶が訊き、酒鬼薔薇が言う前に、答えは返ってきた。
ぱららららー!!麻原が撃ってくる。3人は岩間に身を隠す。

「簡単に死んでくれるほど甘くはねぇよ!」

言いながら酒鬼薔薇がウージーを連射し、応戦した。ネオ麦茶は愛が持っていたブローニングを構え、恐る恐る岩場から目だけを出す。離れた場所だが、確認した。ちらっと岩の間に黒い影が― 巨体が動く。麻原だ(他の誰だというのか)。
酒鬼薔薇がそこへ向けて連射する!

「ネオ麦、見えるか?あそこまで走るぞ!」

酒鬼薔薇が後ろ手に指差した方向を見た。距離は25〜30bほどだろうか。石造りの波止場が見えた。波止場にはモーターボートらしき船舶が7〜8隻、横づけに停められている。中には古びた小型漁船もあった。ネオ麦茶は愛に走れるか、と確認した。愛が頷く。

「援護する!愛さんと2人で一気に突っ走れ!絶対に止まるなよ!」

言うと、すぐさま酒鬼薔薇が岩場から中腰で麻原のいる方へ向け、ウージーを連射した!ネオ麦茶は愛の手を引いて一気にダッシュした!ここまで歩き続け、走り続け、怪我のせいもあって疲労は極限に達していたが、最後の力を振り絞った。
たかだか30bの距離がこれほど長いと感じるのは、これが最初で最後だろう。最後であってほしい!弾が当たらないことだけを必死に祈った。誰に?神に?バモイドオキ神か?などと場違いなことを考えながら。波止場にたどり着く直前、額を流れる汗が目に入り込むが構ってはいられない!汗が目にしみて視界が狭まる。走りながら視線が下に向く。
鳴り響く銃声!恐怖だ!息を切らせながらも波止場にたどり着くが、休む暇はない!近くにあった、やはり石造りの障壁物に身を隠し、愛の安全を確保するとブローニングを握り直す。酒鬼薔薇を援護するため、麻原が見えた辺りへ、ありったけの弾を撃ち込んだ!酒鬼薔薇は腰だめの構えでウージーを連射しながら走ってくる!2人の所へたどり着くやいなや、半ば手で引っ掛けるようにネオ麦茶の袖をはたく。

「乗れ!逃げるぞ!愛さん、早くしろ!」

酒鬼薔薇が手前から2番目のモーターボートに飛び乗り、素早く操縦席に着く。急いでネオ麦茶も飛び乗り、続いて飛び乗ってきた愛の体を少しよろめきながらも受け止める。

けたたましいモーター音を轟かせ、水しぶきを上げながら、ボートは急発進した。瞬く間に波止場が遠のく―。遠くで、ぱららららー、という音がしたので、ネオ麦茶は愛を抱きかかえて床に伏せた。

ネオ麦茶には機種まで分からないが、船の大きさは7〜8人乗りだろうか。ひょっとすると10人くらいは乗れるのかも知れない。操縦席から向かい合わせになったベンチ式シートのある客席まで立派な屋根に覆われ、デッキの床は木製で、ステンレスで作られた落下防止用の柵が備え付けられている。もし、これが殺し合いの真っ只中でなければ、絶好の遊覧船であったに違いない。ネオ麦茶は酒鬼薔薇に疑問を投げかけた―。

「海へ出て大丈夫なのか!?これが爆発するんじゃないのか!?」

ネオ麦茶が巻きつけられた首輪を指差す。もう一つ疑問が。海上ではプログラム防衛隊の艦船が絶えず見張っているはずだ。艦船は海上自衛隊のものである。

「島から離れなければ大丈夫だよ!考慮してる!心配するな!」

その言葉通り、酒鬼薔薇は島に沿ってボートを走らせている。納得するとネオ麦茶は愛をシートに座らせた。

「愛。傷は?傷を見せてくれ」

愛の手当てをしようとしているのに気付いた操縦席の酒鬼薔薇が、前を見据えたまま言う。

「ネオ麦、客席のところに備え付けの冷蔵庫がある。そこにミネラルウォーターぐらいあるだろうから、それで愛さんの傷口を洗ってやれ!」

言われた通り、冷蔵庫らしき収納庫の扉を開けるとペットボトル入りのミネラルウォーターが数本入っていた。手当てをするため、銃弾によって引き裂かれた愛の衣服を少しだけ破き、傷口を洗い流す。

「ちくしょう!麻原の奴、ずっと早くに俺達を見つけて、襲うチャンスを見計らってたのかな?」



 

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