49.

愛が叫ぶのと同時に、操縦席の真横にピッタリくっ付いて走っている麻原のボードが見えた。
灯台下暗しか!?ヤロー!!
叫ぶ間もなく、酒鬼薔薇の左腕を引っ張って伏せる!

ぱららららららららー!

操縦席の真横のドアに被弾し、窓ガラスが割られた。右腕で舵を握ったままの酒鬼薔薇が上体を起こした時、麻原のボートは左斜め前方に進んでいた。また、すぐに伏せる!

ぱららららららー!

「ぐっ!!!」

酒鬼薔薇が唸った。麻原の撃った弾が、酒鬼薔薇の首をかすめたのだ!

ネオ麦茶は何かを言おうと―。 しかし、窓から身を乗り出して撃った!弾はボートに当たったが、麻原はそれにも構わずボートから身を乗り出して、イングラムを向ける。

向うも勝負に出ているのか!

麻原は操縦席に照準を合わせるが、すぐにイングラムを投げ捨て、拳銃に持ちかえた。ネオ麦茶に向けて単発の銃声が響く。ネオ麦茶はドアを縦に、身をかがめる。カンカン、とドアに被弾する音がした。

「麻原には弾を詰め替えてるヒマがないんだ!愛さん銃をくれ!」

愛が床を這うように操縦席近くまで来た。酒鬼薔薇が血みどろになった手でCz75を受け取ると、麻原に向けて撃つ!愛に伏せているよう命じた。単発ながらも麻原の銃声は続く。酒鬼薔薇が応戦する。ネオ麦茶はウージーを構え直し、窓から身を乗り出す機会をうかがう。

 ―その瞬間! 
上空を一つの閃光が飛来した―!

ネオ麦茶にはそれが、あの謎の船舶≠ゥら発せられたものだと分った―。
謎の船舶≠ヘ巡視船に追われながら、3人が乗ったボートよりも島から距離を置いて走行している。もう1発発射された―!

 ―ロケット弾?

そう見えた。弾は島を目がけて飛んで行った。
ネオ麦茶と愛がロケットに気を奪われ、視線が上空に行く― 激しい銃撃戦を展開していた麻原も一瞬、ほんの一瞬だが上空に気を奪われた―!! 酒鬼薔薇がその隙を逃さず、Cz75の銃弾を麻原の胴体にありったけブチ込んだ―!! 麻原が操縦席に背中から倒れ込む―!!
船頭を失った麻原のボートは、岸辺に向かって猛突進し、岩に激しく衝突して高くジャンプした―!!
中空を舞うボートから黒い影がこぼれ落ちる。麻原だ!海面に落下する直前、意識的にか、無意識にか、黒い影は足を組み、蓮華座の姿勢をとりながら、勢いよく腰から海に沈んでいった。
モーターボートがひっくり返って、激しい水しぶきを立てながら海面に落下した。高い波に揺られ、岩にゴツゴツと音をさせながら打ちつけられる・・・。

「最初のところで―」

酒鬼薔薇がゆっくり言った。

「ヤツは俺達を不意打ちするチャンスを失った。それでヤツの負けだ。こっちは何だかんだって、3人いるんだからな」

息をつき、血まみれの手でポケットから煙草の箱を取り出すと、口に咥えて火をつける。最後の1本だ。煙草の箱を手で揉み潰し、投げ捨てた。ボートを岸から少し離れた海上に停め、3人はデッキに佇んでいる。

「本当に死んだのかしら」

愛がひっくり返ったボートを見ながら、心配そうに言う。

「死んださ。さっきの見ただろ?蓮華座して落ちていったところ。あれを写真にとれば空中浮揚してるように見える。あれで信者を騙してたんだ。麻原だって神ならぬ身だよ」

酒鬼薔薇が煙を吐きながら言った。遠くを指差す。

「向うも終りそうだぞ。俺達の殺し合いとは関係ないがな」

ネオ麦茶と愛が指差された方を見る。遥か遠方の海上で、あの謎の船舶≠ゥら火が立ち上がり、煙を噴いていた。かすかに銃声が聞える。海上保安庁の巡視船が機関砲で攻撃し、被弾したようだ。煙を噴きながら沈んでいくのが分った。数分後に謎の船舶≠ヘ海の底へ姿を消す。

「あれは何だったんだろう?」

ネオ麦茶が訊き、酒鬼薔薇が答えた。

「ああ。北朝鮮の工作船じゃないのか。麻薬を密輸したり、人をさらったり、国家ぐるみで犯罪してるような国なんだよ。味方じゃないが、救われたな」

ネオ麦茶がさらに訊く。

「途中、ロケット砲みたいなのが飛んでたよ。島の方へ行ったみたいだ」

酒鬼薔薇が煙を吸い込む。言った。

「麻原はあれに一瞬、気を取られた。俺とは集中力の差ってやつかな。ネオ麦、お前だって貴重な十代という青春を投げ出して事件を起こしただろ?美味い物食って、いい女抱いて、金を貪る片手間に人を殺してる連中と、俺達とじゃ抱えてるモノが違うよな」

ニヤリとして続ける。

「あれは『PRG−7』ってやつだろう。旧ソ連製のバズーカ砲でな。戦車の装甲も貫いちまうんだよ。肩に担いで発射できるくらいの軽量で、ちょっと上手いヤツが扱えばヘリコプターでも落とせる。世界中のテロリスト御用達の代物でね、紛争地域ではアメリカの軍隊も結構悩まされたらしい。あんなモンを撃ち込まれちゃ船なんてバラバラになっちまう。海上保安庁もこれから相当武装化しなきゃなんねぇぞ。小泉さんも大変だ」

「ロケット弾が・・・見えたよ!」

ネオ麦茶が驚きを隠さない。
酒鬼薔薇が煙草の灰を指で落としながら話す。

「あのロケット弾は遅いから肉眼でも確認出来るんだよ。発見が早ければ上手く逃れられる。巡視船がかわしたのか、偶然外れたのかは分らんがな」

「酒鬼薔薇さん、怪我!」

愛が酒鬼薔薇の怪我を気遣い、ハンカチを出して首もとの血を拭く。

「たいした傷じゃないさ」

酒鬼薔薇が煙を吐きながら笑んだ。

「とうとう・・・俺達3人だけになっちまったな」

酒鬼薔薇が言うと煙草を咥えた。

夕陽が島とデッキ上の3人を真っ赤に照らす。島を見上げて愛が言う。

「綺麗!この島で殺し合いが繰り広げられたなんて信じられない」

場違いに優雅な時間が流れようとしていた時、突然!酒鬼薔薇が叫んだ―!!

「ネオ麦ぃ!!!危ない!!!」

同時に酒鬼薔薇はネオ麦茶を突き飛ばし、バン、という音がした。背中から床に倒されたネオ麦茶には何が起きたのか分らない。倒れた状態のまま、視線を上げると酒鬼薔薇が仰向けに倒れ込むのを見た―。瞬時に周囲を見渡す―。もう他に参加者はいないはずだ―。そして船尾に信じられない光景を見た―。頭からずぶ濡れになった麻原が右手に拳銃を構え、もう片方の手で柵を掴みながら、デッキに這い上がろうとしているのを―!!

生きていたのか―! 胴体にありったけの銃弾を撃ち込まれたはずなのに―! 馬鹿な! ずっと海に潜り続けてたのか! コイツの修行というのはハッタリじゃなかったのか―!


 

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