57.

PM16:30

夕刻、1台の高速バスが走る―。

谷口誠一(西鉄バスジャック犯 『2ちゃんねる』でのハンドルネーム“ネオ麦茶”)と小野愛は最後部座席に身を落ち着かせている。車内の座席はそれぞれ独立型だったが、誠一と愛の手は座席間の通路をまたいで、しっかりと握られていた。
周囲の乗客は本を読むなり、携帯のメールを操るなり、持参した菓子や飲料を口に含み、つかの間の旅をそれぞれ楽しんでいた。中にはヘッドフォンで、車内に備えつけられたテレビの音声に耳を傾ける者も数人いるようだった。誰一人として自分達のことに気付いている様子はない。

途中、パトカーのサイレンがけたたましく鳴り、数台の警察車輌が高速バスの横に位置する。誠一は咄嗟に視線を窓の外へ向け、つないだ愛の手をさっと放すとベルトに差し込んだベレッタに右手をやる。愛の表情にも緊張が走った―。
しかし、瞬く間にパトカーは高速バスを追い抜き、サイレンの音は遠のいていく。どうやら別の事件を追って走っているようだった。誠一はホッと胸を撫で下ろし、窓の外から愛の方へ視線を移す。
安著にも似た微笑を見せた誠一に、愛も笑んで反応した。誠一が愛の手を取り、小さな声で、だが、しっかりとした口調で言う。

「愛、ずっと君と一緒だ。酒鬼薔薇に約束した」

愛が誠一とつないだ、その手をギュッと握り、はっきり言った。

「もちろんよ」

乗っ取った首相専用船を降りてから、2人はカージャックしながら逃走資金を獲得。
あの島の戦闘で使っていたウージーや小泉のSPらが所持していた拳銃を持ち出していたので容易に犯行を遂行出来た―と言っても、ここまで来るのに誰一人として殺していない。

酒鬼薔薇の遺体は船を接岸させた周辺の砂地に埋葬した。近くにあった石ころを積み上げ、煙草を線香代わりに立てると、手を合わせた。葬儀≠フ参列者は誠一と愛の2人だけだったが。



「誠一さん、あれ・・・見て!」

 

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